イタリア旅行記3日目

ローマ→フィレンツェ(5)

サン・マルコ修道院

次に向かったのはかつてドメニコ会の修道院であったサン・マルコ修道院である。ここも歩いて数分の距離にある。ガイドブックを見ると開場時間は平日で8:30〜13:50と書いてある。時計の針は13:20を指している。30分しか見られないが、しかたがない。ここではフラ・アンジェリコの「受胎告知」を見られればそれでいいとわたしは思っていた。

入口のチケット売り場では、受付のおばちゃんが客にイタリア語でなにかわめきながらチケットを渡している。「あと30分で閉めるがそれでもいいのか」みたいな事を言っているのであろう。わたしがチケットを買う番が回ってきた。おばちゃんはわたしに対してもイタリア語。何を言っているのか全く分からないが、わたしは時計を指して「50分?」と英語で尋ねると「イエス」と返ってきた。わたしは8,000リラのチケットを買い中に入った。孤児養育院では違ったが、この修道院のチケットはアカデミア美術館と共通のデザインで、ここの目玉である「受胎告知」をあしらった美しいものである。

入口を奥に進むと、回廊に囲まれた中庭に出た。雨雲はすっかり晴れて庭に日が射し込んでいる。緑が目にまぶしい。しんと静まりかえった中に、小鳥のさえずりが響く。なんて美しい空間なのだろう! 失敗した、と、わたしは思った。30分では短すぎる。こういう場所では、なんの予定も持たず時間を気にせずに過ごすべきなのだ。
「げんげん、行こう。フラ・アンジェリコがわが輩を待っている」
みけに声をかけられてわたしは我に返った。そうだった。あまり時間がない。大急ぎで展示品を見て回らなければ。

回廊から建物の中に入り、階段を2階へ上がる。そこにいきなりフラ・アンジェリコの名画「受胎告知」が現れる。この絵について、阿刀田高が「新約聖書を知っていますか」(新潮文庫)の中で「正しい鑑賞法」なるものを紹介しているので、現地に行く予定のある人は参照されるといいかもしれない。

「受胎告知」は、数多の芸術家たちによって何度も描かれてきたモチーフであるが、このサン・マルコ修道院の壁に描かれたフラ・アンジェリコによるものが、その中でもっとも有名で、かつ美しいのではないだろうか。

2階には43の小さな僧房が並び、それぞれにフラ・アンジェリコとその弟子によるフレスコ画・祭壇画が描かれている。その一つひとつをわたしたち早足で見て回った。一番奥には院長を勤めたサヴォナローラの遺品を残した不気味な僧房があり、みけは毛を逆立てていた。

中庭を囲う回廊にも数点のフレスコ画があり、それらを一通り見ると時間となってしまった。わたしは最後にもう一度中庭から空を見上げ、500年前の修道僧たちの生活に思いをはせた。

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