イタリア旅行記3日目

ローマ→フィレンツェ(4)

雨上がりのフィレンツェを歩く

「よかった、雨は上がったニャ」アカデミア美術館を出て空を見上げたみけは、目を細めながら言った。「次はどこへ行くつもりなのだ?」
「孤児養育院を見に行こう。このすぐそばにある」
ガイドブックの地図のページを広げて見て、わたしは提案した。フィレンツェの名所が集中している中心部は、歩いても東西・南北に30分しか掛からない狭い地域なのだ。アカデミア美術館から孤児養育院(「捨て子養育院」とも訳される)は本当に歩いてすぐの距離である。すこし広い通りに出ると自動車も走っているし、自転車・スクーターも多い。信号無視・斜め横断は日常茶飯事というイタリアの交通事情を知っていたわたしたちは、車の合間を見計らって道を渡った。

孤児養育院の前に広がるアンヌンツィアータ広場(別名:二つの噴水の広場)には、二つの噴水の他に、ジャンボローニャ作「フェルディナンド一世騎馬像」が立っている。わたしが孤児養育院の美しいたたずまいに見とれている間、みけは水たまりをよけながら鳩を追いかけ回していた。

孤児養育院

ブルネレスキ設計の孤児養育院は、ルネサンス建築の最高傑作のひとつである。古代建築に憧れを抱いていたブルネレスキは古典的なアーチと柱で、見事に均整のとれたアーケードをつくった。柱の上部にはアンドレア・デッラ・ロッビアによる、赤ん坊のメダイヨン(円形浮彫)がはめ込まれている。この建物の価値はその外観だけではない。この美しい建物は15世紀にヨーロッパ最初の孤児院として建てられたものであり、人文主義に目覚めたルネサンス期の象徴でもあるのだ。
「遊んでないで中に入るぞ、みけ!」鳩を追いかけてずいぶん遠くに行ってしまっていたみけに、わたしは大声で呼びかけた。

孤児養育院の中は、現在は美術館になっているのだ。はて、入口はどこだろう。わたしの他にも入口を探しているらしい観光客がいる。それらしい扉はたくさんあるのだがどれなのか分からない。
「げんげーん! こっちニャ! 早くこーい!」声のする方を見るとみけは先に入り口を見つけたらしく、中に入っていくところだった。なんなのだあいつは。わたしは腹を立てながらみけに続いて中に入った。

ギャラリーは建物の2階にある。受付の机で仕事をしている女性から4,000リラでチケットを買う。平均12,000リラ(約1,000円)のほかの美術館の入場料と比べるととても安い。それもそのはず、展示に使われている空間はそれほど無く、展示品も少ないのだ。ここにはギルランダイオ「東方三博士の礼拝」や、フィリッポ・リッピ「聖母子」のほか、14世紀から18世紀にかけての絵画や彫刻、写本類が展示されている。なんと客はわたしたちのみで、貸し切り状態であった。受付の女性に挨拶をし、わたしたちは孤児養育院を出た。

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